朝陽堂という会社


印刷、この特殊で多様な世界

グーテンベルクによって活版印刷技術が実用化されて以来、人類は情報伝達手段を飛躍的に進歩させました。それからずっと今日まで、印刷はなくてはならないものとして、私たちの生活の中に浸透しています。 新聞、書籍、雑誌などの出版物、ポスター、チラシ、パンフレットなどの広告、包装紙やパッケージなどのほかにも、壁紙、布地、ガラスや食器へのプリントなど、印刷技術の使われていないものは、いまやほとんどないと言っても過言ではありません。 それほど幅の広いものだけに、印刷技術の種類の数だけ、それを得意とする会社が存在します。一社ですべての印刷技術を網羅するのは不可能。印刷会社が印刷会社に依頼するというケースが、この世界では当たり前なのです。 朝陽堂印刷はそんな印刷業界にあって、一般的な印刷以外に特色印刷を得意とする会社です。特色印刷とは印刷の基本となる4色(シアン・マゼンタ・イエロー・黒)では出せない特殊な色を、はじめから調合されたインキを使用して発色させる印刷のことで、包装紙やパッケージなどによく用いられます。 大判の包装紙に均一に色を入れるのは難しく、朝陽堂は京都において特色を得意とする印刷会社として有名で、数々の老舗はもとより、同業者様からも多くの発注をいただいています。

サラリーマン時代に学んだこと

朝陽堂の前身である高橋朝陽堂が産声を上げたのは明治24年(1981)、蹴上に日本初の水力発電所ができた年のことでした。100年以上の歴史を持つ印刷会社の経営者の家に、私は生まれたのです。 いずれそこを継ぐであろうことはわかっていました。しかし、その前に広い世界を見ておきたい。そんな気持ちで、大学卒業後、大阪に本社のある企業に入社しました。 そこでは入社二年目で宣伝部に配属されました。しかも印刷部門担当です。それなら家業を継いでも同じではないかと言われそうですが、なかなかどうして。ここで得た経験は、広い世界に向かって私の目を大きく開かせてくれました。 規模の大きい会社ですから、宣伝にはあらゆるメディアを使います。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、そしてイベント。私も印刷だけでなく、すべてのメディアに接触する機会がありました。各地のイベントにもずいぶん出かけました。そして、それぞれのメディアがもつ長所をうまく組み合わせて、宣伝効果を上げることの重要性をここで学んだのです。 メディアミックス。広告代理店がその頃打ち出していた戦術を、家業の印刷にも生かせないか。後年私がそう考えるようになったのには、このサラリーマン時代の経験がずいぶん影響していると思います。 また、堅い会社だと思われがちな会社でしたが、一旦企画が通れば、社員一人一人の裁量に任せてくれる自由な気風がありました。向こう傷は男の勲章。倒れるときには前を向いて倒れろ。先輩からそう叱咤激励されたことも、もともとあった私の前向き志向をさらに加速させてくれるものでした。

変化はチャンス。慴れる事なかれ

朝陽堂に戻ったのはいわゆるDTP革命の真っ只中の平成3年(1991)のことでした。それまで台紙に写植文字を貼り、イラストや写真を切り貼りして製版していたものが、すべてコンピュータの画面上で処理できるようになったのです。きのうまでの常識は、きょうの非常識となり、あらゆる印刷会社が変化への対応を迫られました。しかし私は、この時期に戻れたことを、むしろ幸運と受けとめていました。なぜなら、伝統産業を守るというのはどうも私の性に合わない、それよりも迫り来る変革にうまく順応して常にバージョンアップしていきたいという気持ちが、私の中にあったからです。変化というものは、積極的に関ろうという気持ちで対処すれば、それほど懼れるに足るものではありません。むしろ肝腎なのは「この変化によって、お客様のお役に立てることが増えるはずだ」と思えるかどうかです。そう思って、お客様の目線で物事を考えていると、必ずお客様の方から「こういうことを、あなたのところでできますか」と尋ねてこられます。この時に「はい、できますよ」と即座に言えなければだめです。つまり、お客様の要望を先に感知して準備をしておくのです。いま、Webの世界に進出したのも、まさにその『お客様の声』をキャッチしてのことでした。テレビでもないラジオでもない新しいメディア、インターネットに、多くのお客様が関心を寄せておられます。そこは高い電波料を払わなくても、また局の意向を気にしなくても自分たちの情報を、自由に発信することのできる場です。しかもこれまでに印刷会社でつくってきたデータを流用することができ、長年培ってきたデザイン力や構成力を発揮することができます。私がサラリーマン時代に魅力を感じたメディアミックスを、私自身の手で成し遂げることが可能になったのです。とてもわくわくしますね。伝統ある朝陽堂の新たな挑戦。私は社員諸君の底力を全面的に信じていますし、絶対に成功させると自分自身に誓っています。